The Power of Air @20190714 Kagoshima

 

エアギター日本選手権決勝大会2019in鹿児島を終えて

 

 

2019年7月14日午後2時40分からの3時間は、歴史的だったと思う。

エアギター日本選手権の決勝大会が、初めて鹿児島市で開かれた。

 

 

エアーが動いた


鹿児島商業高校3年の「ばしばしお」こと石橋陸さんが、最初にプレーしてくれた。

サッカー部の彼は、ユニフォーム姿で、見えないボールを蹴る。

ボールが転がって客席に落ちる。

「あっ…。それ、投げてくれる?」

声を掛けられたお客さんは、見えないボールを拾ってばしおに投げ返した。

「ありがとうございます。って、え?!これ、ギターじゃね?!」

 

ふふっ

 

会場の空気が動いた瞬間だった。

 

ばしおが見えないギターを首に掛け、人さし指を天へ突き上げた。

音楽が始まった。

 

***

 

この、ばしおのプレーが、人生で初めて見るエアギターって人も多かったと思う。

でも、会場は一瞬で楽しみ方を理解したようだった。

ばしおはすっごくいい笑顔をしていて、お客さんは手拍子でノリノリ。

 

楽しいなあ。ええなあ。

…この時、涙が出てきた。

 

 

 

越えていくエアー

 

鹿児島で最も歴史ある百貨店山形屋のベルク広場は、私が数えた時点だけでも300人のお客さんで賑わった。3時間では、もっともっとたくさんの人が足を止めたはず。世代も国籍も越え、エアーはみんなを夢中にさせた。

 

「みんな表情がよかった」(5歳女子)

「それぞれ違う個性がいい。生で見るのはやっぱり躍動感が違う」(男子高校生)

「やる人だけが楽しいのではなく、観る方も一緒になって楽しめる。やってみたくなった。ノリと勢いだけじゃなくて、選曲や盛り上げ方の工夫など、奥深いんだなあ」(20代男性)

「小馬鹿にしていたけど、すごく面白かった。審査員も真剣にふざけてコメントしてる。エアギターというエンタメに信憑性感じた。最初っから全部見たかったなあ」(30代男性)

「ただのミュージシャンの真似事だと思っていたけれど、Imaginative! Creative!(想像的で創造的!)なのね!楽しかった!」(スペイン人観光客・50代女性)

「たまたま通りかかって見たけれど、感動しました」(70代女性)

「ずっとわくわくしていました。ファンになりました」「日本一を決める決勝が鹿児島であり、ここで優勝した人が世界に行くなんて、すごい場に立ち会っていると思った」「みんなが笑顔。普段店舗にいらっしゃらない方も足を止め、天文館に世代を問わず人が集まる、心躍るイベントだった。ぜひ続けたい」(山形屋従業員の方々)

 

 

 私がうれしかったのはお客さんとのちょっとしたやり取り。

 

通りがかりの人が足を止め、ちょっと遠目で見ている。

「よかったら座ってください」って声を掛けると、「あら、そお~?」って前へすたすた出てきて座って観戦し始める。

 

客席に座って笑ってるおばあさんと目が合う。

なんだかちょっと暑そうにしてるなと思って、うちわとお茶を持って行くと、うれしそうに「ありがとう」って言ってくれる。

 

鹿児島随一の繁華街天文館のど真ん中で、こういう田舎くさいお節介が受け容れられるのも、エアーの力かなと感じた。

 

 

高校生エアー!

 

エアギター大会は、鹿児島商業高校の地域プロデュース部が山形屋に提案し、協力を得て実現した。

生徒たちは、若者の県外流出が鹿児島の課題であることや、山形屋が若年層の集客に苦労していることを、アンケートなどを実施して事前に調査。若者が楽しめるイベントとしてエアギター大会に注目した。山形屋のベルク広場で開催し、集客や地元の面白さを発信することにつなげようと、2月から準備してきた。お客さんにエアーで涼んでもらおうとうちわを開発・配布、オリジナルタオルの販売、会場の装飾や照明など、約30人の部員が活躍した。会場のエアー創出に奔走してきた彼らが、大会を通して受け取ったエアーとは…。

 

地域の反応を自分の目で見る経験―ステージの上で司会をした部長の鎌田さん

「通りがかりの人が足を止めて、近寄ってきて見てくれる様子を、自分の目で確認できた。会場をはみ出すほどのお客さんがノリノリで見てくれたのがうれしい。卒業しても鹿児島に残って地域を元気にしたい」

 

大人と一緒にバカする経験―運営だけでなく、エアギターにも挑戦した石橋さん

「大の大人がバカしてる。自分たち若者が元気出さないでどうする?負けてられない。楽しい大人を見て、人生楽しんだもん勝ちだと思った」

 

 

エアーじゃないか

 

ここまで書いて気がついた。肝心のエアギターのプレーについて、一切書いていない。私が書いていたのは、見えないギターを通して見えたもの、だった。

ばしおに始まり、世界チャンピオンの名倉七海さん、ドイツチャンピオンのAirwolfさん、続く13人の出場者のプレー…。ずっと楽しかった。でも、どうして涙が出たんだろう。

 

「偏差値が高いとか、お金を稼げるとかじゃない。大切なのは壁を乗り越える力なんだ。

人口が減って、それまで地域でできていたことができなくなっていく。日本はこの先どうなってしまうんだろうって焦りから、自分たちにできることをいろいろ、いろいろ考えてやって来たけど、エアギターに出会って5年。今回、鹿児島商業の学生や山形屋の方々とやってみて、今日会場で笑っている人々を見て、ここに一つの答えがあるなと思えた。若い人たちの力も感じて、これから、子どもに見せられる未来があるなと思えた」

…エアギタリストであり鹿児島県エアギター協会として運営に奔走したエアネスサイゴウさんが大会後に話したこと。

 

鹿児島商業高校、山形屋、日本エアギター協会、奄美、湯之元、鹿児島のみなさん…ここに来るまで、うまくいかないことは山ほどあったと思う。

でも、力を合わせて、壁を乗り越えてきたから、賑わいや笑いが生まれている。

それが、関わったみなさんにとって、本当にやりたかったことであり、

いま、ここで、それが実現している。

そう感じたら、目の前のプレーはめちゃめちゃ面白いのに、じーんと涙が出てきてしまった。

 

ええじゃないか、エアじゃないか

 

地域プロデュース部のみなさんが考えた大会フレーズが響く。そしてまたふっと笑う。そんなエアギター大会だった。